Distance‐マイナス5cm‐
「あの、良かったら一番前で見ていってください。あたしの隣、空けますんで」
綾チャンは胸の前でパチンッと手を合わせ、笑顔で提案してくれた。
「え、イイの?」
「はい、是非」
あたしと誠は、その笑顔に甘える事にした。
綾チャンに誘導され、一番前の列に三人で並んで座った。
左から、綾チャンあたし誠。
綾チャンは美姫の衣装を担当したらしく、クラスの衣装係などの裏方は、ステージの袖か一番前の席が設けられていると話してくれた。
「綾チャンよく美姫と友達になってくれたよね」
「チャレンジャーだな」
あたしに続き、誠も感心したように頷いた。
「あははッ、あたしも初めは美姫チャンの事、ちょっと苦手だったんです。怖いって言うか、近寄りがたい雰囲気があって……。でも夏休み前くらいに、凄く助けてもらって」
「え、美姫に?」
美姫が人を助けるって、あんまり考えられないと言うか、似合わないと言うか……
「はい、ホントに感謝してるんです」
でもそう言って頷いた綾チャンの顔は、その時の事を思い出しているのか、とても嬉しそうだった。