Distance‐マイナス5cm‐
「渡したい物があって。これ、土産」
そう言って叶チャンは、ポケットの中から掌サイズの小さな袋を出した。
「お土産?」
その袋を受け取りながら問い掛ける。
その袋はラッピングも何もされてなく、中身が丸見えだった。
七宝のピアス。
白地に赤や金で模様が書かれた、丸い玉のような物がぶら下がったピアス。
その袋の裏の紙には、中国語らしい字が印刷されていた。
「中学の修学旅行ん時、俺がのぞみに土産買わなかったから、怒っただろ」
叶チャンはそう言って、その時の事を思い出したのか、小さく苦笑いを浮かべた。
そういえば中学の修学旅行、京都に行った時、あたしは叶チャンにお土産買ったのに、叶チャンは何もくれなかったから、あたしはぶすッとしながら無理矢理約束させたんだ。
「高校の修学旅行では、絶対お土産交換するんだからねって」
あたしの思い出の中の声と、叶チャンの声が重なった。
「……あたし」
忘れてた。
叶チャンにお土産、買ってないよ。