Distance‐マイナス5cm‐
「おはよう」
もう一年以上続いている、当たり前の光景。
あたしが家を出ると誠が待っていてくれる。
何度この笑顔に救われたかな。
何度この笑顔を愛しく思ったかな。
それはきっと、数え切れないくらい沢山で、沢山ある程、今のあたしには辛いんだ。
どーして誠じゃないんだろう。
どーして叶チャンなんだろう。
胸が、痛い……
「おはよう、誠」
あたしは精一杯の笑顔を誠に向け、お互いの指は自然に絡まる。
もう、季節は冬に近くて。
誠の吐く息は白く、空気は刺すような冷たさがある。
「ねぇ誠、あのね……その、お願いが、あるの……」
繋がれた手に、自然と力がこもった。
あたしのその言葉と、繋がれた手の力に、誠はどんな事を思ったのかな。
優しく笑って、あたしを見る。
「あたしね、今日……」
叶チャンの家に行って、叶チャンと話したい事があるの。
なんて言葉は喉で止まって、口には出せなかった。
「帰りに言うね」
あたしが目を伏せて言ったその言葉に、誠がどんな顔をしていたのかは、あたしは知らない。