Distance‐マイナス5cm‐

家の前まで着き、あたしは誠の後ろ姿を見送る。


いつもは、あたしが家に入るのを見送ってくれていた誠。



今日は入る家が違うから…


見送ってもらう訳にはいかない。









ピンポーン


呼び鈴を鳴らすと、玄関のドアが開く音がして、まだ帰ってきたばかりだったのか、制服姿でドアを開ける叶チャンの姿が、ドアの隙間から見えた。





「おじゃまします」と言って家に入ると、そのままリビングに通され、叶チャンはソファーに座り、あたしは同じソファーの、叶チャンの隣に腰掛ける。


向かい合ったら、何だか何も言えなくなっちゃうような気がしたから。







「おじさん、再婚するんだって?おめでとう……」


「あぁ……」


いつかみたいに、あたし達はお互いの顔を見ず、正面を向いている。


正面の大きな液晶テレビには何も映像は流れていなくて、ただ、叶チャンが項垂れる様に座る姿と、その隣にちょこんと座るあたしの姿が、真っ暗な画面に映っているだけだった。




「叶チャン、東京に、行っちゃうの……?」



あたしはその暗い画面を見ながら、呟く様に尋ねた。
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