Distance‐マイナス5cm‐
「約束したから」
「約束……?」
「のぞみと」
あたしと叶チャンの約束。
どんな約束?
「あたし――」
言いかけた時、ガチャッと、玄関のドアが開く音がして、叶チャンのお父さんがリビングに顔を見せた。
「あぁ、のぞみチャンいらっしゃい」
この場の雰囲気には到底似つかわしくない、おじさんの明るい声。
空気が少し和んだ。
「おじゃましてます。あ、おじさん、その、おめでとうございます」
「ん?あぁ、ありがとう」
あたしのいきなりの祝辞におじさんは少し戸惑って、それから顔をほころばせた。
そして「あッ」と言う顔をしてから、ニヤニヤとしだした。
「そういえば叶一、東京行きたくないって駄々こねて、高校辞めて働くからここにどーしても残るって言ってたよなぁ」
……え?
「今そんな事言わなくてイイだろ」
おじさんの言葉に、叶チャンは思い切り立ち上がって低い声で言った。
叶チャン、残るつもりだったの?
「のぞみチャンとそんなに離れたくなかったのか」
そう言ったおじさんのニヤニヤ顔は崩れない。