Distance‐マイナス5cm‐
ちらッと、視線をおじさんの顔に戻すと、小さく微笑んでいた。
でもその笑顔は、どこか寂しそうに見えるのはどーしてだろう。
叶チャンがあたしに向ける笑顔に、よく似ていた。
「じゃあ何で離婚なんかしたんだよ。何で今更再婚なんてすんだよ」
叶チャンの低い声が、あたしの心を締め付けた。
きっと叶チャンも、初めて聞いた話なんだろうな。
声が、いつもと少し違う。
「父さんが、離婚して欲しいって言ったんだ。母さんはまだ、そいつの事が好きだったから。叶一の事は、俺がしっかり育てるから、幸せになれって、言ったんだ」
そう言って、おじさんが初めて目を伏せたのは、叶チャンへの罪悪感からだったのか……
それとも当時の心境を思い出してか……
あたしには分からなかった。
「それで親父と俺を捨てた奴と、何で今更再婚なんてするんだよ……。何で一度も会いに来る事さえしなかった奴を、母親だなんて思わなきゃなんだよ!!」
叶チャンの怒号と、激しくテーブルを殴る音が食卓に響き、あたしは身を縮めた。
殴ったテーブルの上で震える叶チャンの拳は、あたしの心を悲しくさせた。