Distance‐マイナス5cm‐
それでもおじさんは叶チャンを諭す様に、小さく笑いを浮かべた。
「好きだったから。母さんの事も、そいつの事も、同じくらい。二人に、幸せになってもらいたかった」
叶チャンの手の震えは、まだ治まらない。
あたしは、泣きそうだよ。
ねぇ、じゃあ叶チャンの幸せは……
叶チャンの幸せは、誰が願っていたの?
ねぇ……
「ちょっとした、すれ違いだったんだ、母さん達が別れたのは。本当は別れるべきじゃなかった。だけど父さんは、ずっと母さんを愛していたから……だから再婚する事になった」
「……勝手な事言うなよ」
叶チャンの手の震えは、どうやら声にまで伝染してしまったようで。
震えた声は弱々しくて。
でも、ポタリとテーブルを濡らした小さな雫は、あたしの涙。
痛い。
心が痛いよ。
涙はその痛みと比例して、とめどなく溢れ出す。
「分かってる。ろくでもない親だ、俺は。でも母さんも父さんも、叶一の事、大切だと思ってる」
おじさんの微笑みは、やっぱり叶チャンがいつも見せる微笑みと同じだった。