Distance‐マイナス5cm‐
良樹は身構えるでもなく、ただ、泣きそうな顔をしていた。
そういやぁ、良樹に殴られた事なんて今まで無かったな。
「隼人、目ぇ覚ませよ」
その顔のまま言う良樹に、俺は何も言えなくて。
唾を吐き捨てて、その場を去る事しか出来なかった。
何だか酷く、惨めな気持ちになったんだ。
その日を境に、俺達三人は昔のような関係に戻っていった。
多分、良樹には勝てないと自分で認める事が出来たんだと思う。
自覚はしていても認められなかった俺……
ただのガキだった。
やっと、認めたら気持ちが楽になった。
相変わらず良樹と遥は付き合っているし、付き合いも、もう三年になろうとしている。
遥は高校を卒業して働き出し、良樹はもうすぐ大学を卒業する。
良樹の就職先は決まっていて、勤務先は東京だった。
それと同時に、二人は結婚するらしかった。
二人には幸せになってもらいたい。
俺の中にある気持ちは、それだけだった。
だけどそれは突然
本当に突然だった。