Distance‐マイナス5cm‐


喫茶店を出て、おじさんと並んで歩く。



街はもう、クリスマスのイルミネーションに彩られていて、色とりどりの電飾がチカチカと光る。


この時季、あまり晴れる日がないあたし達の住む街は、今はこのイルミネーションが星空の代わり。


クリスマスが近づくと、どーして街はこんなにも賑やかになるんだろう。




冷えた空気を吸い込むと、喉の奥が冷たくなった。






もう、冬。












家の前まで来た時、叶チャン家の玄関前に、誰かが膝を抱える様に座っている影が見えた。




「叶一、何やってんだ?」



おじさんが声を掛けると、その影はゆっくり顔を上げ、おじさんを睨んだ。




「今日は俺より早く帰るから、早く帰って来いっつったのは親父だろ」



白い息が舞った。



おじさんは思い出した様に、ポンッと拳で左の掌を打ち

「ははは、忘れてた」と、全く悪びれる様子も無く笑った。




「でも叶チャン、鍵持ってるんじゃないの?」


笑いを浮かべるおじさんの隣から声を掛けると、叶チャンは少し間を置いて





「……忘れた」




と呟いた。
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