Distance‐マイナス5cm‐
鍵を忘れたのなら、どこかで時間を潰せばイイのに、そうしなかったのは――
「ありがとな、叶一」
おじさんへの、想い。
おじさんが笑いかけると、暗くて表情はあまり分からなかったけど、叶チャンも笑った様に見えたんだ。
「つーかさ、何で二人一緒に居るわけ?」
今度ははっきり、訝し気な顔をしたのが分かった。
あたしとおじさんは顔を見合わせ、
「「デート」」
ニヤけて言うと、叶チャンは眉をひそめ、溜め息を吐いた。
次の日、朝のホームルームが始まっても、叶チャンの姿は教室にはない。
遅刻じゃない。
今日は、欠席。
昨日あれから、あたしが自分の家に帰ろうとした時、叶チャンは言った。
「俺、明日お袋に会いに行こうと思う」
そして
「のぞみ、帰ったら、ハンバーグ作って」
あたしは頷いた。
叶チャンは、きっとおばさんの事を恨んではいなくて。
ただ、戸惑っていたんだと思う。
叶チャンは、そういう人。
おじさんも、分かっていたから叶チャンに話したんだよね。