Distance‐マイナス5cm‐
「のぞみがそれ作る練習始めたの、俺の為だったって、覚えてる?」
覚えて……なかった。
叶チャンはあたしの考えを見通している様に続けた。
「お袋の手伝いにいつも来てくれてて……居なくなってからは一人でも作るって言って、指切ったり火傷しながらも練習して……」
あぁ、そーだったんだ。
あたしも、初めから作れたわけじゃ無かったんだ。
玉ねぎをみじん切りにしていくと、目にしみた。
涙が浮かんだ。
「泣いてばっかいる俺に、のぞみは約束したんだ。ハンバーグ作ってやるから、笑えって。笑ってたら、きっとお袋戻って来るからって」
約束って、その事だったんだ。
だから叶チャンは、いつも笑っていたんだ。
悲しくても、苦しくても、辛くても……
玉ねぎは目にしみて、もうあたしの目からはボロボロと涙が溢れ出した。
これは、玉ねぎの所為。
「俺、馬鹿だよな。大切なモノ失うのが怖くて逃げてたら……もう、手の届かない所に行ってた……」
叶チャンの小さな呟きは、この静かな空間によく響いた。
そして、あたしの心にも。