Distance‐マイナス5cm‐

コートを羽織り、バッグを掴み、玄関を出た。


「お待たせ」


家の前で待っていてくれた誠に笑顔で言うと、誠も笑顔を返してくれた。









去年の様に、あたし達は駅前の大きなツリーの前に来た。


あたし達の手は、誠のポケットの中で繋がれている。




あの時、とても不思議に感じたんだ。


どーしてこうやって大好きな人と見るツリーは、毎年一人で通り過ぎていた物とは全く違う物に見えるんだろうと。



そしてあたし達は約束した。


来年も……

ううん、ずっとずっと、一緒にこのツリーを見ようって。






「今年も、綺麗だね……」


「……あぁ」



あたし達は大きなツリーを見上げ、呟いた。




“来年も一緒に……”



どちらも、この言葉は言わなかった。



それは去年とは違った。




そして、去年と違う事がもう一つ。





「雨……」




ツリーを見上げていたあたしの瞼に、冷たい雫が降ってきた。



誠はあたしの頭を庇う様に、そっと手を置いて、撫でた。


「どっか入ろ」



そしてまた、去年と同じ喫茶店に入る事になった。
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