Distance‐マイナス5cm‐
「もう、解放してあげる。だから、それちょうだい」
誠が指差したのは、あたしの左手の薬指についている指輪。
誠との、ペアリング。
「……ど、どーゆう……」
あたしは思わず、その左手を右手で隠した。
これが欲しいって、そんなの……
「俺、言ったよね。俺はのんが大切だから、悲しませたくないって……」
あれは、叶チャンに誠とのキスを見られた時。
確かに誠はそう言った。
あの時、あたしは誠の言った意味が、よく分からなかった。
「俺、のんを悲しませてばかりだったな……」
誠は俯き、表情は分からない。
あたし、誠の所為で悲しんだ事なんてないよ。
あたしがいつも誠を悲しませてた。
いつも、心の中で謝っていた。
誠はいつも、あたしを笑顔にさせてくれていたよ。
そう思っても、言葉には出せなかった。
誠の言っている意味が、頭じゃなく、心で分かっている。
「俺といるのんは、いつも辛そうだった。自分の心に嘘ついて、苦しそうだったよ」
誠は、やっぱり気付いていたんだね。