Distance‐マイナス5cm‐


去年のこの日。


あたしはその日も、教室は違くてもこの場所に座っていた。




誠と、向かい合って。





美姫に嫉妬していた頃。


誠の気持ちが痛い程分かった日。


誠の過去に不安を募らせていた時。


誠の涙を見た瞬間……。





ここに、座っていたね。







机に顔を伏せ、目をとじる。


机を挟んだ向こうには、誠が居るような気がした。










「……のん?」




聞こえるハズのない声が、少し遠くから聞こえた。








「のん……」




今度は、あたしが伏せた机の向かいから聞こえた。






……誠。






顔を上げると、あたしと同じ目の高さに屈んだ誠が居た。


至近距離で絡まる視線。




「やっぱりのんだった」


誠は優しく笑った。





「まこ、とぉ……」


その笑顔を見て気が緩み、涙が滲んだ。



「泣いてばっかいんなよ」


意地悪そうに笑ったその顔は、あたし達がまだ付き合う前によく見た笑顔だった。
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