Distance‐マイナス5cm‐
12時、10分前。
あたしは駅前の、結夢とタカヤンがまだ付き合っていた頃、学校帰りに二人がよく行っていた喫茶店の前にたたずんでいる。
冬の中でも、雪が一番積もる季節。
風は冷たいんだけど、珍しく空は晴れていた。
「待った?」
低く透き通った声が、後ろから聞こえた。
叶チャンの声にそっくり。
「のぞみ?」
その声で名前を呼ばれ振り返ると、小さく微笑んだ叶チャンが立っていた。
「え、叶チャン、どーしたの?」
“待った?”と言われた意味が分からなくて、でもこんな日に叶チャンの顔を見れたのが嬉しくて。
「聞いてない?」
そう言って苦笑いする叶チャンに、あたしは二回程頷いた。
でも頷きながら、何と無く今の状況が分かった。
これは結夢からの、誕生日プレゼントなんだって。
「俺から誘うつもりだったんだけどさ、仲條と有坂に止められて……どこに行くかも全部あいつらが決めてんの」
叶チャンが苦笑いしながらこの状況を軽く説明して、ピロリンも絡んでいた事に驚き、胸が一杯になった。
みんなありがとう……。