Distance‐マイナス5cm‐





「あの、お客様……?」



「――え?」


「テイクアウトのCセットです」


コーヒーショップの店員が訝し気な表情をしながら、俺に紙袋を差し出している。




そーだった。

俺は課題の論文を仕上げる為、日曜だというのに大学の図書館で論文を書いていた。

そして昼になり、休憩がてらこのコーヒーショップへ昼飯を買いに来ていたんだった。


でも何だか、食欲は無くなっていた。






あいつらの結婚式は今日か……。




美姫から式の事は聞いていた。


でも美姫から聞かなくても、俺は知っていた。

お節介焼きなヒロから、霧島が俺を招待するかどーか悩んでいると聞かされたからだ。


「もし吹っ切れてんなら来てもらいたいって言ってた」と。


俺は大学が忙しいと言って断った。


本当の理由は言えなかった。











「それ、昼飯にでもして、望月みさきサン」


俺は差し出された、Cセットの入った紙袋を受け取らず、それを差し出している女の店員に向かって言った。
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