Distance‐マイナス5cm‐

クラス委員は皆が帰ってからも仕事がある。

教室の片付けや戸締まり、皆が帰った事の報告。

衣装を作り始めたら、教室に鍵をかけないといけないし。

まぁやる事が沢山あるわけで。

「誠も先帰ってイイよ、後はあたし一人でもできるし」

少し肌寒い秋の風を感じながら、窓を閉めた。

「俺も委員なんだし、そんな事言うなよ。昨日一緒に帰るって約束もしたじゃん」

誠も窓を閉めながら言う。


あれは約束ってか、勝手に誠が決めた事だけど。


そんな言葉を飲み込んだ。


あたしは素直じゃない。

本当は結夢に、あんな事言いたかったわけじゃなかった。

叶チャンの事悪く言われてムカついたけど、結夢が心配してくれている事は、嬉しかった。


「……ありがとう」

結夢に言いたかった言葉を、代わりに誠に言ってみた。

そうしたら、少し気持ちが楽になった。

素直になる事は勇気のいる事だけど、勇気を出した分、見返りがあった。

だから、いつもと違うあたしに少し驚いた様子の誠に、もう一度言ってみた。

「誠、いつもありがとうね」

照れも恥じらいも隠さない、気持ちを伝える勇気。

気分は晴れやかだった。
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