Distance‐マイナス5cm‐
「あ、あ、結夢ぇ……」
鞄を持って結夢を追い掛けようとしたら、誠に鞄を掴まれ、またも笑顔で阻止されてしまった。
さっき活を入れたはずなのに、もう弱腰になってるなんて。
誠はジャガ芋誠はジャガ芋誠はジャガ芋……
何度も心の中で、意味不明な呪文を唱えた。
「まぁ座ろっか」
でもそう言って笑った顔はやっぱりジャガ芋ではなくて、無駄な抵抗を諦めた。
「明日一緒に踊るんだし、こんなんじゃ上手くいかないだろ」
「……うん、ごめん」
「こんなんなるんだったら、言わなきゃ良かったかなーって、ちょっと後悔してたんだ」
「……………………」
あたしも誠も俯いたままで、お互いの顔が見れない。
「……取り消した方がイイかな」
「えッ……」
思わずあたしは顔を上げて、誠の顔を見る。
――取り消すなんて言わないで。
「なぁ〜んて嘘♪取り消すわけないじゃん」
誠は意地悪な笑いを浮かべた。
あたしはさっき、どんな顔をしたんだろう。
さっき思った事は?
きっと今、嘘だって言われて、安心したような顔をしたんだろうな……
自分でも分かった。
でも、何で……?