Distance‐マイナス5cm‐
「いつも送ってくれてありがとう」
あたしの家の前で、あたし達は向かい合う。
何だか、まだ付き合っているって実感がない。
あれからここまでの道のりも、いつもとあまり変わらなかった。
それはお互い照れていて、何と無く気まずくならない様に、わざといつも通りに振る舞っていたからかもしれないけど。
「明日からもさ、ずっと送らせてよ」
「え、悪いよ。誠の家、逆でしょ?」
たしか誠の家は、高校を挟んで反対側だった気がする。
あたしの家も誠の家も高校からはさほど離れていないけど、何だか気が引けた。
でもそんなあたしの気遣いはお構いなしに、誠は少し赤くなりながら、ふんわり笑った。
「俺が一緒に帰りたいんだ。送らせて」
「でも」
“やっぱり悪いし”って言おうとしたら、唇に、温かくて柔らかいものが触れ、あたしの言葉は中断された。
――え。
一瞬何が起こったのか分からなくて、頭が真っ白になった。
そしてその、温かくて柔らかいものが離れた時、優しい顔をした誠と目が合った。
「じゃあ、また明日ね」
誠は、呆然と突っ立つあたしに手を振り、駆けて行った。