ジェフティ 約束
 その日は白い糸を引くような冷たい雨が降っていて、なぜだか寂しい雰囲気に満ちていた。

 周囲を覆いつくす木の葉に、軽やかに当たってはじける雨粒の音や、蒼く湿った香り。動物たちが身を寄せ合って気配を押し殺している、張り詰め引き締まった空気。そのすべてが、息苦しいほどに少年ラルフの体を包み込んでいた。

 ここは、テルテオ村の北に広がるヘロデヤの森。しんと冷えた静謐(せいひつ)な冷気が、春を迎えようとする里の民に、まだ冬の名残を惜しんでいると伝えていた。
 ラルフの前を歩く父親の背中が、いつもより広く見え、そこから暖かい空気がにじみ出ているように感じられる。ラルフは、その頬を撫でる暖かな空気に、寂しさがそっとぬぐわれたような気がした。
 しかし、そんな安らぎとは別に、冷たい雨は体温をどんどんと奪っていき、ラルフは寒さに震え白い息を吐き出した。
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