ジェフティ 約束
「まだ、寒さは続きそうだね、父さん」
「……そうでもないさ、春になればすぐに暑いというようになる」
 空を見上げて思わずため息を吐き出したラルフ。言葉は一瞬白く形を成したが、すぐに空に解け消えた。ダルクは振り返ると、苦笑をたたえた穏やかな瞳で見つめた。

 ラルフとその父親ダルクは、プリスキラ大陸の最東端に位置する、テルテオ村に住んでいた。
 テルテオ村は、大陸をほぼ南北に二分する大国ノベリアとコドリスのその境目にあり、ノベリアの王都カリシアから、最も遠く離れたところに位置していた。もうひとつの大国、北のコドリスとの国境近く、原生に近い広大な森と、切り立つような稜線に年中真っ白な雪を抱くベチカ山脈の懐に抱かれていた。
 テルテオの民は、畑を耕し、肥沃な土壌を育むヘロデヤの森に分け入り、狩りを行い生計を立てていた。村人すべてがひとつの家族かのように彼らは身を寄せ合い、互いを思いやることで自らの身を守り生きてきたのだった。
 ダルクはテルテオの村長であり、村一番の狩人としても人望厚い男だ。ラルフを産んでまもなく妻エリアが死に、それ以来、男手ひとつでラルフを育てている。
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