ジェフティ 約束
「まさか、シェシルじゃないよね」
 フォックルは後ろ足だけで立ち上がり、長い耳をぴくぴくさせながら、真っ黒な瞳でラルフを見つめている。ラルフが片手を出すと、フォックルはぴょんと飛び跳ねて傍によってきた。
 ラルフの手の匂いをフフフフと嗅ぐ。ひげが手の甲に触れてくすぐったい。
「神様も残酷だね、まさかこんな可愛い動物にシェシルを変えちゃうなんてさ」
 ラルフはくすっと笑った。昨日の森の妖精の話を思い出したのだ。フォックルに手を伸ばして、そっと頭を撫でる。
「シェシルはどっちかって言うと、そうだな。肉食動物だね。生肉でも平気そう」
「誰が肉食動物だって?」
 その時、ラルフの後ろの草むらからぬっと長身の人間が現れた。びっくりしたフォックルが、ささっとラルフの影に隠れる。

「どこに行ってたんだよ。下手に動くとまた迷うくせに」
 シェシルはラルフの傍らから顔だけのぞかせている小動物を見ながら、地面に木の実を下ろした。
「今日はなにがなんでも、この森からでるからな。早く街に行ってまともなものが食べたい」
 シェシルは赤いタッシェの実をつまんだ。
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