ジェフティ 約束
「くっ!」
 幹に突き立てた刃が抜けなくなり、ラルフは手を幹にかけ引き抜こうと苦戦する。足を踏ん張って両手で柄を握って引っ張るが、まったくびくともしなかった。
「もう駄目なのか?」
 ラルフの背後からシェシルの手が伸びてきて、ラルフの手に重なる。横目でちらりとラルフを見たその表情は ――情けないやつめ――という小馬鹿にしたような微笑を浮かべていた。
 ただ、指先に力を入れただけ。そんな感触がラルフの手に伝わってきた。ナイフは主人の命令だけに従う意志を見せたのか、するっと幹から外れた。
「馬鹿力……」
「何か言ったか」
シェシルは刃こぼれがないかを見ながら、じろりとラルフを見やる。
「べーつに」
「お前はな、体に力が入りすぎなんだよ。刃物を持つときには、関節を柔らかくしてゆるく持つのが肝心なんだ」
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