ジェフティ 約束
 茂みから荷物をつかみ出すと、血しぶきを浴びてぬらっと光る髪をかき上げ、血に濡れた手を荷物の袋の端で拭う。手馴れたしぐさだった。
 息も乱れていない。あれだけの動きだったのに。

「無事だったか?」
 分かりきったことを言う。
 ――あんたが守ってくれたんだ。傷ひとつないよ。
「なんとかね」
 ラルフは声の震えをまだ止められずにいた。
「そうか」
 シェシルの視線がふと外れ、荷物を掴んで馬に向かって歩き始めた。
 この背中を追わないといけない。そう思うのに、足が動かなかった。
 ――俺は、覚悟なんてこれっぽっちもできていなかったんだ。
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