ジェフティ 約束
 普段のノリスは陽気で朗らかな男だった。子供好きで、自身も子供のようにはしゃぎ笑う。魅力的でもあり、その優しさで自分を傷つけ追い込んでもいた。
 ――あいつは、剣を握るべきではなかったのかもしれんな。
 いつだったか、一面焼け野原になった戦場のぬかるみに突っ伏し、小さな子供のように泣きじゃくるノリスの姿を見かけたことがあった。その姿を見たデメテリオ将軍が、アスベリアの肩に手を置いて痛々しそうに顔をゆがめてつぶやいたのだ。
 しかし一旦戦場に出ると、誰もが恐れる鬼神となり、何者も寄せつけない強さで勝利を次々と手にした。そしてまた泣くのだ、子供のように。
 その痛みも、苦しみも、罪の重さも、すべてあの村を守るため。身を切るような悲しみに、息もできないほど苦しんでも、それでも愛し守りたかったあの土地が、たった数時間で焦土と化す。砂の城のような脆弱さ。

 ――心の弱い人間の命など、はかなく脆いものなのだ。
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