ジェフティ 約束
 アスベリアはノリスの農夫の姿を思い出し、口元をゆがめた。一番望んでいた、一番幸せだった時にあいつは逝ったのだ。そのことを、アスベリアはうらやましいとさえ思うのだった。
「何を思っていたのですか?」
 ふと、馬車の中にしつらえられた籠の中で、王への土産の品が口をきいた。
 アスベリアは追憶の世界から一気に現実へと戻ってくると、口元を引き締め目の前の籠を凝視した。

 アスベリアが乗っているのは、馬が四頭で引く黒塗りの大きな馬車だ。内は、ドア手前の半分に黒革張りのソファーと四角く小さなテーブルがしつらえられ、半分を籠で仕切っている。アスベリアは自分が見張り役にもなれるように、このような室内を作らせたのだ。食事を取るときも籠の前に座り、夜寝る時もソファーで横になっている。
 大きな籠も、アスベリアが巫女姫を捕らえて入れるように特別にしつらえたものだ。中は羽毛の柔らかいクッションを敷き詰め、狭いながらも快適に過ごせるようにと配慮している。小さな明かり取りの窓はガラスがはめ込まれ、小さい視界ではあったが外がのぞけるようになっている。
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