ジェフティ 約束
「懐かしさと、寂しさが」
 アスベリアはふっと笑った。なるほど、そう読めるのかと。
「さぞかし、満足なのでしょうね」
 妙に大人びた口調だ。
 初めて捕らえられたときのあの泣き叫びようなど、もう微塵もない。アスベリアはわざと破顔した笑みを籠のほうへと向け、手にしていた酒の入っていたグラスを持ち上げた。
「ええ、私にとって王のご命令は絶対ですから」
 その言葉を聞いた巫女姫は、籠の中でくすりと笑った。かすかに鈴を転がしたような笑い声。よくもそんな戯言をと言わんばかりだ。

 酒を口に含むと、芳醇な果実の香りが鼻へと突き抜ける。りんごを主原料とした、ベリドル産の強い酒。琥珀色の滑らかな液体が、薄いグラスの中を踊っていた。
 自分も、このグラスの中の酒のように、ゆらゆらと人生の中を漂っているだけではないか。そう思ってしまう。
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