ジェフティ 約束
 インサは物心ついた頃から孤児だったのだという。あちこちの街で物乞いをしながら東に流れてきて、今の住処に落ち着いたらしい。聞くところによると、街でさまざまな仕事もしたことがあるそうで、森の暮らししか知らないラルフには始めて聞くことばかりだ。
 なんでもこれから向かうラドナスは、裕福な商人たちが沢山集まる活気のある街で、食べ物が豊富に手に入り、なおかつ旨いのだそうだ。
 ラドナスの明かりが頬を照らすほどになると、賑やかな人の話し声や陽気な音楽が聞こえてきた。
 黒く燻して油を塗りこめた板を何層にも重ね、中の家の屋根を越す高さにまで積み上げた高い壁がぐるりと街を取り囲んでいる。
 街に入る入り口は北と南に一箇所ずつ。真夜中の太鼓が鳴る頃には、その跳ね上げ式の大きな門が閉ざされ、朝まで開くことはない。
 黒い門をくぐるとき、門番がインサに話しかけてきた。
「ようインサ、久しぶりだな。どうしたんだこんな時間に」
 門番は片手に酒瓶を握っている。すでに酔っているらしく、ちょっとろれつが回っていない。
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