ジェフティ 約束
 ふと、その時、シェシルのぽそりと小さな声が聞こえた。
「お前の事も見たことあるんだ。まだ小さな赤ん坊だったが。森の中で、川を流れてくるお前を拾ったときは、その赤ん坊だとは気が付かなかったが。……泣き顔がな。その頃と変わってなかった」
「……そう、なんだ」
 だから、シェシルは助けようという気になったのだろうか。
「ねえ、シェシルもテルテオを出るとき泣いた?」
 新しい洋服にもぞもぞと着替えているシェシルに向かってたずねてみる。
「そんなわけないだろ」
 口元をゆがめて鼻で笑われたが、それは嘘だとすぐに気が付いてしまう。泣かなかったなんてありえない。そうでなければ、あの時、彷徨いの森で泣いていたラルフに――泣くのなら、我慢はしちゃいけない――なんていうことはできないはずだ。
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