ジェフティ 約束
 唯一、ここが牢獄ではないと理解するに足るものが、部屋の片隅にこじんまりとすえつけられている。酒のビンが三本とグラスが六個置かれただけの傷だらけのテーブル。
 そして、窓際に寄せるようにして向かい合っているソファーが二つ。そのソファーも、クッションが擦り切れて中の詰め物が端からはみ出しているし、優美な曲線を描く形を有しながらも、ソファーの座面は長年の汚れが堆積し、表面の模様はすでにその中に没してしまっていた。

 アスベリアは、戸口に据え付けられている剣を立てる台へと近づくと、自分の剣を腰から外してそこへ立てかけた。こんなものに剣を預けられるとは、なんとも悠長な場所ではないか。
 星を抱えた蛇をあしらった紋章を、銀糸で刺繍してある紺色のマントを肩から外すと、くしゃくしゃと丸めて窓際のソファーに向かって投げつけた。それはうまいこと丸まったまま、クッションの脇に収まり、まるでいじけたように静かにうずくまる犬のようだ。
 いくつか置かれている酒瓶の中から、赤ぶどうが原料の酒をグラスに注ぐと、それを手にしたまま窓際に置かれたソファーにどさりと座り込んだ。
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