ジェフティ 約束
 アスベリアは自嘲の笑みを浮かべ、シェンタールの腰に腕を回したまま広場へと出た。先ほどまで明るく周囲を照らしていた月は、闇色の雲のベールに包み込まれてしまい、辺りは松明の明かりだけで薄暗い。兵士たちの宴も終盤のようで、心地よい気だるげな話し声が静かにもれ聞こえてきた。

「ああ、懐かしいね、この曲」
 シェンタールはアスベリアの首に両腕を回しながら、背伸びをして首筋に唇を当てた。
 兵士が弦楽器を奏でているのだろう、少し調子の外れたワルツがゆっくりと流れてきた。二人はいつだったか、まだ幼なさの残る頃に、宮廷にあがったらダンスも踊れなくてはと、路地裏で見よう見まねで練習したことを思い出す。二人はどちらともなくその調子の外れたワルツに合わせて踊り始めた。
「なあ、シェンタール。オレはこの国にとって、小さな駒の一つに過ぎないのだろうか」
 シェンタールの豊かにカールした金色の髪に、アスベリアは顔を埋めてつぶやいた。シェンタールは、アスベリアの胸に頬を当てながらくすりと笑う。
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