ジェフティ 約束
 アスベリアたち一行は、すでに問題の断崖のそそり立つ岩場の道に入って半日が過ぎようとしている。その上、この雨で夜の進軍は出来ない。さらに苛立たせる伝令が後ろから来るとなると、アスベリアの我慢も限界を過ぎて、途方もなく無の境地に陥りそうなほど、頭を空っぽにしたい衝動に駆られるのだった。
 アスベリアは、何時間も揺れる馬車の中で、目の前に据え付けられた籠をじっと見つめる。
 巫女姫は相変わらずアスベリアと共に馬車に乗っている。
 これについては、出発前夜ナーテ公とまたひと悶着あったのだが、女がひしめくナーテ公の馬車に巫女姫を乗せる場所がないということと、当日、巫女姫が自ずからアスベリアについていくそぶりを見せたということで事なきを得た。
 流石のナーテ公でも、巫女姫の神の鉄槌を恐れたのかと、アスベリアは内心ほくそえんだ。
 相変わらず、アスベリアと巫女姫は、一日の大半をこの小さな馬車の中ですごしているのにもかかわらず、交わした言葉は十指で足りるほどである。
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