ジェフティ 約束
 巫女姫は籠の中に新たに設えた小さな寝台に腰を下ろし、羽毛のクッションをひざに抱えて、小さな明かり取りの窓を凝視しているか、そのまま目を閉じているかのどちらかだ。時折、アスベリアの方を見つめるときもあるが、すぐに視線を外してしまう。
 ――何を考えているのか、さっぱり分からない――というのが、アスベリアの正直な想いだった。
 アスベリアが夕食の盛り付けられたトレーをエドから受け取り、巫女姫の籠の中へ滑り込ませる。
「……夕食です、巫女姫」
 アスベリアはここ数日で、巫女姫が果物が好きだということまで把握していた。それほど心を砕いて、観察している証拠だ。

 声をかけても身じろぎしない巫女姫をじっと見つめる。
 ――眠っているのだろうか?
 アスベリアは身を乗り出して、籠の隙間から中を覗き込んでみた。ただの少女ではないか。アスベリアは再びそう思うよう努める。まだ幼さの残る額が見えた。馬車の中で輝くランプの光が、籠の隙間を通して、少女の白い肌を断片的に浮き上がらせている。
< 264 / 529 >

この作品をシェア

pagetop