ジェフティ 約束
 ――だからなんだっていうんだよ!あんたが剣を手放しても現実は何も変わりはしない。あんたはただ、自分の罪を許されたいと思っているだけじゃないか!
 軍を去ろうとするノリスに激しく詰め寄り、アスベリアは自分が抱える虚しさを吐露したことを思い出した。
 もう自分には、この道しか残されていないのに、なぜお前は簡単に農夫に戻れるのだと。

 何を今更。贖罪の機会すらとっくに失ってしまった。
 戦場で孤児になった子供を拾い、助けたつもりが上からの命令で始末しなければならなくなった。子供の目から見れば、敵国の兵士というよりも、自分に笑いかけてくれる憧れの騎士に写っていたことだろう。きらきら輝く信頼をこめた視線を裏切り、血が滲むほど唇をかみ締めて剣を振り下ろした、あの感触。
 ――……アス……。
 もう二度と決して向けられることのない笑顔が、アスベリアを責める。もしも、自分に権力さえあれば助けられたかもしれない少女の面影。
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