ジェフティ 約束
 久々に見た子供らしい怯えたような反応だった。アスベリアはなおも巫女姫を引っ張って抱えると、自分のマントにその体を頭からすっぽりと包み込み抱き上げる。
 巫女姫が嫌そうに身をよじったが、ここで手を離すわけにはいかない。
「大人しくしてください。貴方をここから逃がします」
 巫女姫の動きがぴたりとやみ、夜闇にも光る瞳が、アスベリアのマントの隙間から彼の横顔を捉えた。
「あなたはどこへ行くの?」
 アスベリアは、その問いには答えようとはせず、巫女姫を抱えたまま馬車を降り、雨に打たれながらエドが引いてくる馬のほうへと歩き始めた。
 ――どこへ行く?
 アスベリアの心が揺らぐ。その言葉の真意に、一瞬触れたような気がしたのだ。それは、この場でのことなのか、この後のことなのかは疑いようもない。アスベリアは素早くその思いに蓋をして、隊の後方を振り返った。
「この隊は賊に襲われています。私も戦わなくてはならない。しかし、貴方をここにおいておくことはできません。……嫌な予感がするのです」
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