ジェフティ 約束
 エドは、巫女姫の体をしっかりと片腕に抱えながら、暗闇の中を走った。
 先ほどから急に雨が上がり、空には寒々とした光を湛えた月が、破れたベールのような雲の隙間から見え隠れし、その度にエドの行く手の道を途切れ途切れに照らし出していた。
 ――雨季だというのに、珍しいこともあるものだ。それとも巫女姫が雨に濡れぬ様にと神が配慮したのか。
 このどこにも逃げ場のない断崖の道をひたすら行くと、自分たちが目指していた、王都カリシアへの中継地点となる第二都市オルバーにたどり着ける。
 カリシアへはどう見繕っても馬の足で後二十日はかかる道のりだ。アスベリアはオルバーへ行くことを嫌っていたが、食料や物資の調達のためにはどうしても寄らなくてはならない。
 オルバーの王弟の元で待っていれば、アスベリアと再会できるはずだ。
 ――あれが、そんな襲撃ごときでくたばるとは思ってはおらん。
 それよりも、エドはこれから二日ほどの間、巫女姫を抱いてこの道を走りとおさねばならないことへの困難を思った。
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