ジェフティ 約束
 エドは馬の歩調を緩め、ゆっくりと歩かせ始めた。この山道を駆け上り続けて二時間は経過している。そろそろ、馬の体力も限界だろうと思えてきたのだ。後方を振り返ってみるが追っ手が近づいてきている気配はない。今や頭上に燦然と輝きを放つ月がすっかりと顔出しているせいで、この山道にはどこにも隠れる部分がないほどに照らし出されている。
 こうして、腕の中に子供の暖かな柔らかい重みを感じていると、久しく忘れていたことが次から次へと思い出される。
 まだ、自分のこの足が二本そろってあったころ、若さに過信して無茶ばかりをしていたずっと昔のことが。

 ――思えば、私の人生は、ほとんど戦場で過ごしてきたようなものだ。
 アスベリアと始めて会ったのは、オスベラスの内乱を鎮めるための徴兵を募った折、少年兵として志願してきた彼が、適性検査を受けに受付に並んでいたときだった。
 ――奴は腹をすかせて青白い顔をした痩せっぽっちの子供だった……。私は戦場に送り出すことを躊躇ったが、奴の目が強い意思で私の心を掴んで離そうとはしなかった。
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