ジェフティ 約束
 シェシルはラルフの体を、自分が抱えている荷物か何かのように引きずっていくと、部屋のドアを開けた瞬間、中に放り込んだのだ。ラルフは硬い板張りがほぼむき出しの床に頭を打ち付け派手に転がる。
 ラルフは、ジンジンとうずくように熱を持った後頭部を擦る。
「いいか、夜になるまでこの部屋から一歩も出るな」
 ラルフは自分に向かって突きつけられたシェシルの人差し指の先を見つめながら、大人しく頷くしかない。口答えする言葉も見つからなかった。
 そんなラルフから視線を外すと、シェシルはマントを脱ぎラルフに投げつけて、寝台に腰を下ろした。旅用の重い革靴をごとりと床に投げ出すと、そのまま寝台に横になる。

 はぁ、とシェシルの口から自然にため息が漏れた。腰から外したナイフを枕元に置くと、眠そうに片手で目を擦る。
「寝る……。雨戸は絶対に開けるなよ。夜になったら教えろ……」
 そう言った途端、シェシルの動きが止まった。十秒もしない内に寝息をたて始めてしまう。今、ラルフの目の前には、ぐっすりと深い眠りに落ちたシェシルの寝顔があった。
 驚くほど寝つきがいい……、とラルフは不思議な生き物を見るようにしてシェシルの顔を覗き込んだ。
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