ジェフティ 約束
 シェシルが寝返りを打ち、寝台から上掛けがするりと落ちた。ラルフはそれを静かに拾い上げると、そっとシェシルの上にそれを広げて掛けてやる。
 ――こうやって見ると、まるで大きな子供だ。
 夜通し馬の背に揺られていたからだろう。相当疲れていたに違いない。シェシルはよく眠っていた。
 グレーの光りを放つ短い髪が、寝台の上に広がり、くしゃくしゃに乱れている。額にかかっていた前髪の隙間から、新しくできたばかりの赤い切り傷が見え、ラルフはどきりとした。昨日の戦闘で負った傷だと、安易に想像がつく。シェシルは鎧に身を包んでいたのではない。それも屈強そうな男たちに囲まれ、ほとばしる殺気の只中にいた。思わず血生臭い匂いがよみがえってきた。
 ラルフは思わず両手で自分の顔を覆った。
 本当はあんな争いなんて嫌に決まっている。血の匂いも、人を斬りつけた時の感触も忘れることなんてできない。村が襲われたとき、ジェフティを守ろうと剣を振り回した時は、何がなんだかよく分からなくなっていた。殺されるという恐怖と、ジェフティを守らなくてはという想いが自分を支配していた。
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