ジェフティ 約束
 その刹那、そこから勢いよく散ったものが、ラルフのマントと服に弧を描くように飛び散ると、悲鳴と怒号が同時に沸き起こった。
「ぎぃやあぁぁぁ!!」
 床に突っ伏しのたうつ兵士の腕の先は、手首がなくなっていて、代わりにそこからぼたぼたと大量の血が床に滴り落ちた。
「う!」
 ラルフはその光景に吐き気をもよおし、片手で自分の口元を押さえて目を逸らす。その目を逸らした先には、ラルフが先ほど叩き落したその男の手と、そこに握られたままの剣が無造作に転がっていた。
「ラルフ!!」
 不意に飛んできたシェシルの声にハッと顔を上げると、ラルフは身を翻して宿屋の入り口のドアに向かって駆け出した。慌てた兵士たちが手を伸ばしてラルフの襟首を掴もうとしたが、外に飛び出したラルフの速さに追いつくことができない。
 大騒ぎになっている宿屋の入り口周辺には、野次馬と化した街人たちの生垣ができていたが、ラルフが抜き身の剣を握ったまま外に飛び出してきたが為に、みな血相を変えてあたふたと逃げ出す。
 入り口に繋いであった馬に飛び乗ると、縄を切ってそれをぐいっと引いた。男たちの大声と血の匂いに怯えたのか、馬は大きく嘶くと、ラルフの体を跳ね上げながら、街の中心に繋がる道を駆け始めた。
「ま、待て!」
 兵士たちが鎧を身にまとって重くなった体で、必死に追いかけてくる。
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