ジェフティ 約束
「……インサ」
 名前をつぶやきながらラルフの表情も曇った。
「よう、ラルフ。元気だったか?」
 この闇には似合わないほど、やけに明るい声だ。まるで朝の挨拶のようにも聞こえる。

 周囲には、先ほどインサが手にしていた獣脂のランプの匂いが漂っていた。草むらに転がったランプをインサは引き寄せぶつぶつ言い始めた。
「本当、酷いぜ、姐さん。これ高かったんだぜ。二人のために買ってきてやったのに……」
 シェシルは降ろした剣先を再び持ち上げ、インサの喉元に突きつけた。
「なぜ追ってきた!」
「わあ!もう、姐さん、そんな怖い顔で睨まねえで下さいよぅ」
 怒鳴りつけられたインサは、頭を抱えてその場に縮こまった。しかし、頭を抱え込みながらも、自分の体の下からこちらの様子を伺っている。油断のならない奴だ。シェシルはため息をつきながら声を和らげもう一度尋ねた。
「だから、なぜお前は私たちを追ってきたんだ?」
 インサはそろりと身を起こし、引きつった笑みを浮かべて口を開いた。
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