ジェフティ 約束
「おれが関門の厩にこいつらを売ってくるよ」
 そう言ってインサは、甘えて鼻をすり寄せてくる馬のたてがみを、名残惜しそうに撫でてやりながらぽそりとつぶやいた。関門の脇には、商人や旅人が休息を取ったり、旅支度を補充するための小さな集落がある。そこへいけば、馬も売れるはずだ。
「私たちはここで、夜になるのを待つから、お前はさっさと用をすませてくるんだ。……わかってるんだろうね、変な気を起こそうもんなら……」
「わ!わかってるよ!……ちぇっ、信用されてねえなぁ……、おれ……」
 インサはシェシルの脅しにびくびくしながらも、口をすぼめていじけた表情のまま、馬の手綱を握り締め、二頭を連れて関門のほうへと歩いていった。
「まあ、あいつなら、馬泥棒が小銭稼ぎにやってきたってくらいにしか疑われないだろうよ」
 シェシルがふっと笑ってインサの後ろ姿を見つめる。
「……それはそれで、問題じゃないか?」
 と、ラルフは少し慌てたが、もしなにか疑われるようなことがあっても、インサなら口八丁手八丁で切り抜けてくるのは、安易に想像できた。
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