ジェフティ 約束
 シェシルも、インサが買ってきた新しい雨よけのマントを、自分の背中に背負った長剣をすっぽりと覆うように肩にかけ、フードを深く被って首の部分に付いた金具をパチンととめる。シェシルは旅人だ。このくらいの装備を常に持っているはずだが、インサに文句一つ言わず黙って新しいマントを身につけている。
「雨季に入ったんならなおさらだよ。多分今日当たり、夜は強い雨が降るんじゃないか?」
「……きっとそうだろうな。ノベリアの雨季は昼夜問わず雨が降り続けることで有名だが、ことさら夜は強い叩きつけるような雨が降る。十分な装備があればそのほうがいい」
「お!姐さん、おれのことちょっとは見直してくれたってこと!?やっぱ、おれって役に立つでしょ」
 シェシルは冷たい視線をインサにちらりと向けた。
「くだらん」
 以前引き起こした事が事だけに、インサはまだまだ信用されなさそうだ。
「……そんな……冷たいなぁ」
 三人は肩を寄せ合い、木立の影にしゃがみこんだ。ここで仮眠を取って夜まで待とうというわけだ。夜になればコドル山脈の中へと入り、関門から遠ざかるため、しばらくは歩かなくてはならない。
 シェシルはもちろんインサも、この山越えが過酷な道のりになるのはよく分かっていた。ここで無理やりにでも眠っておかないと、体が持たないのだ。時折頭上から落ちてくる雫がフードを叩く音が、静かにあたりに落ちる。その音に耳をすませているうちに、三人はうとうとと夢の中に滑り込んでいった。
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