ジェフティ 約束
 ――悪魔のような子だ。

 初めて出会った時に、そうニーラムが笑いかけた言葉がそれに重なる。
「そ……んな、ニーラムが死ぬなんて」
 こんなにも死が身近な場所で、それでも目の前に横たわる男が死ぬなんて信じられない。それも自分のためにだ。シェシルの声は囁きでしかない。
 昨晩、傭兵部隊に敵軍の奇襲があった際、シェシルはその奇襲にいち早く気が付き、ほぼ一人で向かえ打つ形となってしまった。仲間の援軍がすぐに到着したのだが、シェシルはその時肩とわき腹に深手を負ってしまったのだ。
 その傷が痛み、動きが鈍ったところを襲われ、そばにいたニーラムがシェシルをかばって刺された。
「ああ、オレは死ぬよ。でも、人として死ねる」
 ニーラムの目がうつろになってきた。
「傭兵は人なんかじゃないからな。でも、オレは幸いお前のために死ねる幸運を掴んだんだ」
「何言って……」
 シェシルの手が震えだす。もういつものように、冗談を笑って受け止める余裕がなかった。
「……シェシル、悪かったなぁ」
 ニーラムがぽつりとつぶやいた。
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