ジェフティ 約束
 スヴィテルは豪快に笑うと、オルバーまでの道を教えてくれた。シェシルは男たちがなぜここにいるのかなど一言も尋ねたりはしない。
「この辺りは朝靄が濃くてかなわん。迷わないように気をつけてな」
 スヴィテルの言葉には気遣いの影に潜めた、早くここを立ち去れという圧力があった。シェシルは丁寧に礼を言うと、足元にうずくまって固まっているインサの襟首を掴み、まるで荷物か何かのように持ち上げて無理やり立たせた。
「夜遅くに邪魔をして申し訳ありません。失礼します」
 シェシルはインサの背中をどんと突き飛ばすと、男たちの視線を痛いほど浴びながら、道の先をランプで照らし歩き出した。三人は黙ってひたすら下を向き、黙々と森の中を歩いていく。

 シェシルの後ろを歩くラルフは、シェシルの怒りをひしひしと感じていた。前を歩くインサはラルフよりもその怒りに怯えていることだろう。インサは歩き始めてから一度も声を発することなく、後ろを振り向こうともしない。
 シェシルは、一度立ち止まり背後を確かめると、ドスのきいた声でインサの襟首を掴んだ。
「お前、よっぽど私に殺されたいようだな」
「ご……ごめ……。そんなつもりじゃ!」
 インサのつま先が地面から離れ、苦しそうにじたばたともがく。
「かといって、こんなところに死体を転がしとくわけにはいかない。奴らは私たちが無事にここから遠ざかってほしいようだ。助かったな」
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