ジェフティ 約束
 インサはため息をついて、もう一度小さな声で謝った。
「あのスヴィテルって人、知り合い?」
「昔の雇い主だ」
 それ以上は訊くなという態度で、シェシルは視線をそらしたため、ラルフはその後何も聞くことができなかった。
 三人は夜通し山道を歩き、朝靄で辺りが真っ白に包み込まれたころ、オルバーへと続く切り立った岩場が続く峠へとたどり着いた。
 緊張と寝不足で体が重い。さすがのシェシルも怒りが加わったことで余計に疲れているようだった。三人は、峠から森の中に入った木の根元に身をよせ、朝靄が晴れるまで仮眠をとることにした。荷物の重みが体に心地よく、ラルフは体を持たせかけると、すぐに深い眠りに落ちていった。


 三人の眠りを唐突に奪い去ったのは、轟音のような雨音の間をつんざく鋭い指笛と、それと共に遠くで沸き起こったときの声だった。密やかに、秘めやかに、時代の流れが変わりゆく瞬間の訪れと共に、それは高らかに鳴り響いたのである。
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