ジェフティ 約束
「なんだ!」
 アスベリアはその殺気の後に空気を切り裂いたものを、体をひねってかわすと、青白く輝く流星のごとき残像が、異常なスピードで自分に向かってくるのを信じられない思いで見た。
 刃が切り裂く風の唸りが、その重量を推し量っている。
 ――まずい!
 アスベリアの視界を塞ぐほどの巨体が、ぐいっと迫ってきた。その男の握る獲物に、アスベリアはますます目を見開く。青白く光を放つ巨大な戦斧。その前ではアスベリアが握る長剣など、まるで短剣かナイフのようだ。

 男がうなりをあげ、何も握っていないほうの腕を振り下ろす。
 刃が空を切る音とはまた違った唸りがアスベリアの頬をかすめ、一瞬遅れて皮膚が裂け血が頬を伝い落ちた。
 ――なんだ、このスピードは!
 その重量にそぐわない速さに、アスベリアは腹の奥底が急激に冷えていくのを感じた。

 戦慄。

 それを恐怖だとは思いたくはない。思えばたちまち力が抜け、両の目が幻覚を映し出すだろう。この場に留まるのだ。それだけで勝機は必ず見えてくる。
 戦斧を握って仁王立ちの男は、目深にかぶったフードの奥で、自分の間合いから飛びのいた長身の男を注意深く見つめ、そして口元をゆっくりとゆがめた。
 ――余裕綽々(しゃくしゃく)といったところだな……。こっちから仕掛けられるのは一度きりか。
 アスベリアの猛禽類を思わせるキャメルブラウンの切れ長の瞳が、周囲に広がる炎の輝きを吸い取り、一瞬きらりと光った。
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