ジェフティ 約束
 傍らに横たわった男の体は、咳き込むアスベリアとは違い、身動き一つしない。アスベリアは、脇腹を押さえ血の混じった唾を吐き出しながら、片目を瞬かせ地面に手をつき体を起こした。
「冗談じゃないぞ……」
 アスベリアの目の前には、青白い光を放つ巨大な戦斧が泥水に半ば没して、その異常な姿をさらしていた。
「ガウリアン鋼か」
 コドリスの兵士でも、そんなものはなかなか手にすることはできまい。それならば、この男は何者なんだ。
 その脇に転がった自分の長剣のなんとか弱く、頼りない姿か。それでも何もないよりはましだろう。今はこれに命を預けすがるしかないのだから。アスベリアは自分の剣の柄を握り締め、それを引きずり出すように、泥水の中から引き抜いた。
 背後から、こちらへと駆け寄ってくる足音がする。アスベリアは横目でその足音の主との距離を測った。
 ――次から次へと……。
 苛立ちが猛烈な勢いで腹の底から湧き上がってきた。しかし、先ほど脇腹に叩き込まれた一撃で、立ち上がる力が入らない。
「クソ!」
 足音の主が剣を上段に構える。アスベリアは泥水の中を這いずるように身をかがめ、自分の剣を水平に持ち上げ上へと突き上げた。
 剣を振り下ろそうとする男の推進力と、アスベリアの下からの突き上げる力が、男のみぞおち辺りに当ったアスベリアの持つ剣に集中する。
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