ジェフティ 約束
 男の口から飛まつが飛び散り、押し潰したようなうめき声がもれ出た。それと同時に、アスベリアの剣が、高く鋭い破裂音を伴って手の内で折れる。衝撃が、またもやアスベリアの手首に走り、思わず悲鳴にも似た声を上げてそれを手放した。
 男が傍らに倒れこむ。

 辺りが静まりかえった。

 ――残党はどこだ。
 アスベリアはかすむ目を擦りながら辺りを見渡した。泥濘(ぬかるみ)に投げ出されくすぶり続ける松明から漂ってくる、甘ったるい油の焼ける臭いが鼻をつく。それは粘着質を帯び、アスベリアの髪、皮膚、鼻の粘膜にべったりと染み付くようだった。
 先ほどアスベリアに助けを求めて逃げ惑っていた、ナーテ公の腰巾着の男の死骸が、アスベリアからさほど離れてないところに転がっていた。
 耳を澄ませば、そこかしこからうめき声が聞こえてくる。アスベリアも体を起こしていることに限界が来ていた。視界がゆっくりと傾く。
 濁った水を跳ね上げながら、昏倒したままの大男の傍らに体が伸びた。
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