ジェフティ 約束
 イムンの目の前で、アスベリアの体が勢いよく地面に突っ伏した。何かがアスベリアの足をものすごい力で引っ張ったのだ。泥水が再び目に入り、視界がぼやける。アスベリアは体をもがきながら叫んだ。
「何をしている!早く行け!これは命令だ!」
「は、はい!」
 イムンの足音が遠ざかってゆく。
 アスベリアは、がっちりと掴まれている自分の足の先を見た。
「離せ!」
「愁傷(しゅうしょう)なことだな、子供を逃がすとは」
 そこには、先ほどアスベリアの横で昏倒していた男が、痛そうに自分の顎を片手で押さえていた。もう片方の手はアスベリアの足首をしっかりと押さえつけている。その力がすごい。
 アスベリアは再び泥水の中に没した。後頭部を押さえ込まれ、全く身動きが取れない。アスベリアは満身の力でそれに諍(あらが)ったが、余計に泥水が鼻から口から流れ込んでくる。
「おとなしくしろ!」
 アスベリアはその声を聞いたとたんに、意識が遠のくのを感じた。
 ――クソッ!
 毒ついたのは心の中だったのか、声に出したのかはわからない。それほど急激にアスベリアは意識を手放したのだった。
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